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笹幸恵
2023.5.5 13:20日々の出来事

「血」で分類するということ

映画「ヒトラーのための虐殺会議」を観てきた。
ユダヤ人絶滅政策について議論したヴァンゼー会議の様子を、
議事録に基づいて再現した映画だ。
政府の次官レベルや親衛隊幹部が集まって、
ユダヤ人の移送をどうするか、
計画的に殺害するにはどうするかを話し合う。

議論は淡々と進む。
ときに言い合いをしたりもするのだけど、
それはユダヤ人絶滅という政策の是非ではなく、
自分の党や省庁に迷惑がかからないか、
自分のメンツがつぶされないか、という
ムラの掟や保身によるもの。
誰もがユダヤ人の「最終的解決」に異論はない。
というか、それが当たり前の事実、大前提として
横たわっている。
そこにとてつもない不気味さ、異様さがあることを
想像できるか?
淡々と議題が進む中、これが観客に問われている。

私たちはナチス・ドイツの行き先を知っている。
ヒトラーの最期を知っている。
しかし大事なことは、その結末が未知だったとき、
全体を覆う「自明の空気」に、自分の常識をもって
疑問を持てるか、抗えるか、だ。

後半で、ユダヤ人の定義について話し合われる。
要するに「血」の話だ。
ユダヤ人とドイツ人のハーフ、
あるいはクオーターはどうなるか、
そしてまたクオーターでも純粋なドイツ人の伴侶が
いた場合はどうするか、その子供はどうするか、
いない人との区別をどう説明するか。
わけがわからなくなって、最終的に
「断種すれば "劣化" は防げる」と言い出す。
ここで会議は中断、その後、アイヒマンが
アウシュビッツ収容所の計画を発表して
ヴァンゼー会議は終わる。
ここからホロコーストが加速した。

日本でも「男系の血統」を声高に主張する人がいる。
高貴な血筋という文脈で語っているから
本人には差別しているつもりなどないのだろうが、
「血」で人間を分類しようとする発想そのものが
恐ろしいほどの差別なのだ。
虐殺をも容易に正当化するのだから。
歴史は、それを証明している。

問題は、その恐ろしさを認識できるだけの
知性と想像力があるかどうか、だ。

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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